日本人が「元号」と「西暦」を使い分けるわけ
知ってそうで知らない日本の「元号」基本の“き”③
■元号候補・未採用文字から次の元号は予想できる?
元号の候補が勘申され、ひとつに決まれば他の案は使われない。しかし、こうした候補は適当に選ばれたわけではなく、それぞれ明確な出典があり、大きな意味合いを持っている。そのため、これまで候補として挙げられたものが、再び候補として挙げられたものが、再び勘申されることも少なくない。例えば大正は、かつて3回も候補に挙がっている。さらに明治は11回も出され、日の目を見た(※詳しくは近刊の所功他著『元号』(文春新書)参照)。
元号に用いられる漢字には表意文字という性質上、意味がある。また、国家の在り方などを考えるうえで、中国古典から名言好字が選ばれている。このことからも、その基準さえクリアすれば、漢字の組み合わせで元号を考えることは誰にでもできそうであるが、決して安易にできるものではない。
「元号は、国家・国民の理想を表すにふさわしい文字であること、読みやすく書きやすいこと、しかも従来、内外で使われていないことなど、いろいろ考慮しなければなりません。それには個性的な文化として、独立国家の象徴でもある元号の意味を十分に理解する、文化勲章クラスの大学者に考案を依頼されるでしょう。ただ、一般の人々も知恵を出し合い良い案を考えてみることには意味があるかもしれませんね」と所さんは語る。
もちろん、継承されていく文化である以上、昨今のネット文化のように面白半分でやればいいというものではない。漢籍を読み、これを理解し、これからのあり方を考えた漢字の選択が大切になる。
「昭和36年頃、日本書紀研究会で、東大の坂本博士が『元号は日本のものでいいのではないか』と言われたことがあります。すると漢詩文研究家の小島博士が『自分ならまず聖徳太子の十七条憲法から選び、次に嵯峨天皇の漢詩から選ぶでしょう』と答えたそうです。考古学者の斎藤忠博士も『長い歴史のある日本だけに、万葉集や古事記から選んでもいいのでは』と話されました。柔軟な考え方を受け入れることで、元号はきっと皆さんにとっても身近なものとなるに違いありません」と所さんは語る。もし実現すれば、元号の公募も夢ではなくなるかもしれない。
〈雑誌『一個人』2018年5月号より構成〉
- 1
- 2